【出逢い編17】2番目に上手いだと?
彼女はその時、僕が聴いてきた女性の中でいちばん歌うのが上手かった。
誤解の無いように言っておくが、沢山の女性とカラオケに行った事がある。という訳ではない。
以前、カラオケ屋さんで働いていたので、ドリンクやフードを部屋まで運ぶ時に、色んな人の歌が嫌でも耳に入ってくるのである。
彼女が歌い終わり、さりげなくほめてみる。
「歌、上手いでな。」
「歌うの好きやし、音楽も好きやからなぁ。」
ある程度、歳をとれば、カラオケが上手かろうが下手だろうが全く気にならないのだが、二十歳そこそこの男女にとっては、歌が上手いのは魅力的に見えるものである。
ましてや、時代はカラオケブームの真最中だ。
よく聞くと、子供の頃からエレクトーンをずっと習っていて、歌うのも好き、らしい。
先日も友達とASAYANのボーカルオーディションに行ってきたらしい。
「いや、でも、たくちゃんも上手いやん。」
「え~、そうかなあ?そんな事ないやろ~。」
とうれしながらも謙遜してみる。
「上手い、上手い。私が聴いた中で2番目に上手いわ。」
2番目?
1番は誰?
そこは嘘でも1番でいいやん。
それが気になりながらも、2人ともノンストップで歌う歌う。
カラオケが終わると、いつもの様に駅前まで送っていく。
いつになったら家の場所を教えてくれるのだろうか?
ひょっとしたら、もうずっと教えてくれないのだろうか?
少し不安になる自分がいた。