【青春爆走編17】ただ、滑りにいきます。
最後にアイススケートに行ったのは小学校5年の時くらいなので、5年ぶりくらいだ。
あの頃は、アイススケートが珍しく、近くにたまたまあったので、友達とよく行っていた。
受付でスケート靴を借りて、履き替える。
そしてリンクに入る。
ここで、恋人同志ならキャッキャッ言いながら滑り始めるのだろうが、4人とも黙々とスケート靴を履き、静かにそれぞれリンクにはいる。
実におごそかである。
まるでなにかの儀式のようだ。
Kちゃんも友達もアイススケートは初めて、という事で、立つだけで産まれたての子鹿のようにプルプルしていた。
ここでも、恋人同志なら、手でも繋いで一緒に滑るのだろうが、あいにく今日はその日ではない。
タツヤよ、お前の人選ミスだ。ヒロシかショウジを連れて来た方が、まだちゃんと女の子の相手をしてあげれてたと思うぞ。
そんな事を考えながら、ぐるっと一周していると、まだ2人はプルプルしていた。
タツヤはKちゃんになにかアドバイスみたいな事を言っていたので、僕も友達の方にとりあえずアドバイスをしてみた。
「えーと、怖がって腰が引けたら余計にバランス悪くなるから。で、とりあえず足を出す。」
「そんなん無理ー」
アイススケートを完全に甘く考えて来たな。この子らは。
と思いながらも、ちょっと和まそうとしてみる。
「こけるとき、気つけて。氷ってめっちゃ硬いから、お尻からこけたらお尻2つに割れるで。」
今じゃ、完全にセクハラなオヤジギャグを繰り出すが見事にスルーされる。
こうなると、小学生のグループ交際のように、男と女と完全に分かれる。
「タツヤよ、外の気温以上にサブいんやけど。渾身のギャグもスケート以上に滑ったんやけど。」
「ああ、タクもう適当に滑っといていいで。あの子らも、もうすぐ帰るってゆうんちゃうかな。」
「ほんじゃ、一生分滑っとくわ。帰る時ゆうて。」
そう言って僕は1人で延々と滑っていた。
この時の宣言どおり、この時から25年間、1度もアイススケートに行っていない。
それからちょっとして、タツヤが呼びにきて帰ることに。
帰る頃になると、タツヤもだいぶ女の子らと打ち解けていて、僕を除く3人で話が盛り上がったりしていた。
待ち合わせをしていた駅に着き、そこで2人と別れる。
アイススケートで、というよりも気を遣いすぎて疲れた。という感じだ。
「今年最後にめっちゃ疲れたわ。」
「俺も。」
嘘をつけ、お前は何も考えてなかったやろ。
と、心の中でツッコミながら2人で真冬の道を家へと帰った。
こうして1993年は終わり、年が明け、1994年が始まる。