【青春爆走編03】聖夜にフラれる男
コンッ! コンッ!
「誰や?タツヤもマコも今日バイトやのに。」
そう言いながらヒロシは窓を開け、外を覗きこんだ。
ヒロシの部屋は2階の奥にあり、わざわざインターホンを押すのも家族に迷惑が掛かるということで、家の下に来たら舌打ちを鳴らす、というのが僕らのルールだった。
「誰~?」
僕は相変わらず暇そうにマンガを読みながらヒロシに尋ねる。
「うわっ!ショウジや!」
「えっ?早ない?帰ってくんの。」
「とりあえず上がってこいよ。」
ヒロシはそう言うと、窓を閉めた。
それから数秒後、部屋のドアが開いてショウジが入ってきた。
実はショウジはクリスマス・イブの今日、付き合っている彼女と遊びに行っているはずだった。
確か、5時に駅で待ち合わせをすると言っていたのだが、この時まだ6時半だ。
早すぎるし、部屋に入ってきたショウジの泣きそうな顔を見たら、僕もヒロシもおおよそ見当はついた。
それでも僕は聞いてみた。
「今日、遊びに行くんちゃうかったっけ?早ない?」
すると蚊のなくような声で
「別れた。フラれた。」
とショウジが答えた。
一瞬、その場の空気が重~く、沈んだような雰囲気になった。
が、その2秒後。
「ブァッハッハッハッ!なんでクリスマスにフラれんねん!泣きそうやし!」
「ヒャッヒャッヒャッ! ヒロシ、笑いこらえるのん、プルプル震えてるし!やめて~!」
2人とも大爆笑で大盛り上がりである。
しかし、ショウジはフラれたてのホヤホヤだ。
「もうええって!」
想像以上にショウジが凹んでいたので、2人ともなんとか笑いをこらえて、話を聞く事にした。
ショウジがストーリーテラーのように語りだした。
「駅で5時に待ち合わせやから、行ったんやんか。そしたら彼女はもう来ててな。で、俺がどこ行く?って聞いたら、ゴメン、別れて、って。」
僕もヒロシもこの手の話は大好物だ。
ここでヒロシが尋ねる。
「お前、彼女に別れたい理由聞けへんかったん?」
「聞いたよ。」
そこからまたショウジが話し出した。
さっきまであんなに暇だったのに、こんな面白いネタを持って来てくれてありがとう!ショウジ!
と僕は心の中で思いながら、ショウジの話を聞いた。