どうしようもないクズ男の半生記

今年で40歳になり、人生を折り返そうとしているクズ男の半生記です。

【青春爆走編05】ムチャクチャやな、おい!

目が点になっているショウジの横で僕は、ヒロシの発言に大きくうなずいていた。

 

「そらそやろ!ショウジ!人の彼女にちょっかい出す奴は、月に代わってお仕置きせな!」

 

「さすがタク。分かってるやん!」

 

もう僕もヒロシも完全に戦闘モードに入ってしまった。

 

「ショウジ、とりあえずその山本って奴に電話してみたら?」

と僕は聞いてみた。

 

「いや~、でもな~、なんてゆっていいんかな~。」

 

当の本人は全く煮え切らないようだ。まあでも、ほんの1時間程前にフラれたばかりなのでそれも仕方ない。

 

あげくの果てには、

「ヒロシ、代わりに電話してよ。」

と、なんとも情けない事を言い出してきた。

 

「おう、ええけど、お前のフリするで。名前聞かれたらショウジってゆうで?」

 

「ええよ。それで。」

 

「おっけ!そいつもし、しょうもない事ゆってきたら、シバきにいこな。タク。」

 

「おっけ!」

 

面白くなってきやがった!

と、まるで『カリオストロの城』の次元大介のような気持ちでヒロシがその山本とやらに電話するのを聞いていた。

 

「もしもし、山本くんのお宅ですか?〇〇といいますが、△△くんいますか?」

これがさっきまで、シバくとか言っていた人物と同じとは思えない程のよそいきの声である。

 

どうやら、本人は家に居たらしい。

そして本人が電話にでると

「おう?お前が山本か?お前、●●さん知ってるやろ?人の女にちょっかい出して調子に乗ってん?」

 

これまた、さっきのよそいきの声とは別人のようだ。

ヒロシ、あんたは立派な詐欺師になれるよ。

しかし、厳密にいうと、さっきフラれ済みなので、もう人の女ではないのだが。

 

このやり取りがどうなっていくのか、ワクワクしながら、聞き耳をたてる。

 

電話をスピーカー通話にしていたので、相手の声も聞くことが出来た。

 

「なあ、調子乗ってんかって!」

 

「お前、誰やねん!何やねん!」

 

山本くんもなかなか強気だ。だが、そうこないと面白くない。

 

「ショウジや、お前、●●さんにしょっちゅう電話してるらしいな? もう電話すんな!」 

 

もう付き合ってる訳じゃないのに、電話すんな、とか言ってる事はムチャクチャである。

けどここは勢いで押し切るヒロシだ。

 

「は?そんなん関係ないやん。何でそんな事お前に言われらなあかん?」

 

山本くんも必死でカウンターパンチを繰り出してくる。

だが、相手の反抗的な態度と『お前』という言葉にヒロシがキレる。

 

「うるぁ!お前、誰にお前ゆうとんじゃ!お前〇〇中やろ!家も分かるからな!今から行くから逃げんなよ!」

 

それを聞いて、僕は「あ~あ、山本くん、可哀想に」と思いながら、出る準備を始めようとした。

多分、ショウジがフラれるのも知ってたっぽい感じだ。だからあそこまで強気なんだろう。

 

「えっ?ちょっと待って。何でくるん?」

 

「とりあえずお前、ボコボコにしに行くわ。」

 

「待って、待って。分かった!分かったよ。もう●●さんに電話せえへんよ。」

 

「お前、さっき俺にお前ってゆったよな?」

 

「それは謝る。ゴメン。」

 

やっぱり折れた。本気で●●さんの事が好きならば強気を貫き通すはずだ。

この先、山本くんが本当に●●さんに電話とかをしないのかは分からないが、フラれた男が、もう電話するな、とか、普通に考えたらもうムチャクチャな話だが、ヒロシの電話のやり取りを聞いていたショウジをふと見ると、泣いていた。

 

半泣きを通り越して7分泣きくらいで泣いていた。

 

僕もヒロシも目が点になった。

【青春爆走編04】持つべきものは友?

ショウジが続きを話し出すのを、僕とヒロシは必死に笑いをこらえながら聞いた。

 

「で、何で別れたいんか聞いたんやんか。そしたら他に好きな子できた。って。」

 

フラれる理由の中でもトップクラスにダメージの大きいフラれ方だ。

 

ショウジが続けて話し始めた。

「なんか、友達の彼氏の友達で、その友達も一緒に4人で遊びに1回だけ行ったらしいねんな。その時に電話番号交換したら、めっちゃ電話かかってきたんやって。」

 

あまりにも可哀想すぎて、さっきまであんなに笑いをこらえるのに必死だったのに、僕も段々悲しくなってきた。

 

更にショウジが続ける。

「で、彼氏おる。ってゆってたんやけど、しょっちゅう電話してきて、好きになったんやって。」

 

その子がその男に、本当に彼氏おる。って言っていたのかどうかは怪しいとこだが、その彼女も同じ町内に住んでいる子で、昔から知っている子なので、そこは信じたい。

 

黙って聞いていたヒロシが尋ねる。

「相手の男、誰か聞けへんかったん?」

 

「聞いたよ。一応。」

 

それを聞いた僕は、その時ばかりはショウジやるな~!と感心した。

フラれたその時に、相手の男の事を聞くなんて、メンタルが強いのか弱いのか。

僕がその状況になっても絶対に聞けないだろう。

 

「で、どこの奴よ?」

 

ヒロシのテンションが上がる上がる。

 

「〇〇中の山本っていう奴。」

 

「高校は?どこ行ってん?」

 

「いや、そこまで聞いてない。」

 

「〇〇中やったら友達おるで。聞いてみよか?」

 

そう言うとヒロシは電話を取り、掛け始めた。

多分、同じクラスの〇〇中に行ってた友達に聞いてるのだろう。

 

その様子を僕とショウジは黙って見ていた。

 

電話が終わり、ヒロシが興奮気味に言った。

「わかったぞ!下の名前も分かったし、電話番号も分かった。」

 

さすがヒロシ。仕事が早い。

 

「で?電話番号も分かったし、どうするショウジ?シバく?」

 

ショウジは目が点になった。

 

 

 

 

【青春爆走編03】聖夜にフラれる男

コンッ! コンッ!

 

「誰や?タツヤもマコも今日バイトやのに。」

 

そう言いながらヒロシは窓を開け、外を覗きこんだ。

 

ヒロシの部屋は2階の奥にあり、わざわざインターホンを押すのも家族に迷惑が掛かるということで、家の下に来たら舌打ちを鳴らす、というのが僕らのルールだった。

 

「誰~?」

 

僕は相変わらず暇そうにマンガを読みながらヒロシに尋ねる。

 

「うわっ!ショウジや!」

 

「えっ?早ない?帰ってくんの。」

 

「とりあえず上がってこいよ。」

 

ヒロシはそう言うと、窓を閉めた。

 

それから数秒後、部屋のドアが開いてショウジが入ってきた。

 

実はショウジはクリスマス・イブの今日、付き合っている彼女と遊びに行っているはずだった。

確か、5時に駅で待ち合わせをすると言っていたのだが、この時まだ6時半だ。

早すぎるし、部屋に入ってきたショウジの泣きそうな顔を見たら、僕もヒロシもおおよそ見当はついた。

 

それでも僕は聞いてみた。 

 

「今日、遊びに行くんちゃうかったっけ?早ない?」

 

すると蚊のなくような声で

「別れた。フラれた。」

とショウジが答えた。

 

一瞬、その場の空気が重~く、沈んだような雰囲気になった。

が、その2秒後。 

 

「ブァッハッハッハッ!なんでクリスマスにフラれんねん!泣きそうやし!」

 

「ヒャッヒャッヒャッ! ヒロシ、笑いこらえるのん、プルプル震えてるし!やめて~!」

 

2人とも大爆笑で大盛り上がりである。

しかし、ショウジはフラれたてのホヤホヤだ。

 

「もうええって!」

 

想像以上にショウジが凹んでいたので、2人ともなんとか笑いをこらえて、話を聞く事にした。

 

ショウジがストーリーテラーのように語りだした。

 

「駅で5時に待ち合わせやから、行ったんやんか。そしたら彼女はもう来ててな。で、俺がどこ行く?って聞いたら、ゴメン、別れて、って。」

 

僕もヒロシもこの手の話は大好物だ。

 

ここでヒロシが尋ねる。

「お前、彼女に別れたい理由聞けへんかったん?」

 

「聞いたよ。」

 

そこからまたショウジが話し出した。

 

さっきまであんなに暇だったのに、こんな面白いネタを持って来てくれてありがとう!ショウジ!

 

と僕は心の中で思いながら、ショウジの話を聞いた。

 

【青春爆走編02】クリスマスなのに!

1993年12月24日 クリスマス・イブ

バイトが休みだった僕は、ヒロシの家にいた。

ヒロシの部屋のステレオからは、ポール・マッカートニーのワンダフル・クリスマスタイムが流れている。

 

高校生になって初めてのクリスマス。

女っ気は全くない。

 

僕はタバコをふかしながら、暇そうにポールと一緒に口ずさんでいた。

 

「なあ、ヒロシ。今日クリスマスやで? 野郎2人とかヤバない?」

 

「俺、明日、おんなじクラスの女の子来るから、家くんなよ。」

 

「マジで?初耳やねんけど!誰よ?付き合ってん?」

 

「あれ?タクにゆうてなかったっけ。付き合ってないけど、電話とか結構してる子。」

 

「まあ、どうせ明日バイトやからいいけどな。」

 

僕はとてつもなく裏切られた気分になり、マンガをパラパラとめくっていた。

 

コンッ! コンッ!

 

その時、外から舌打ちを鳴らす音が聞こえてきた。

【青春爆走編01】はじめに

【青春爆走編】を始める前に、簡単に登場人物の紹介だけしておきます。

 

タク   僕です。

 

ヒロシ  カッコよく女子からも人気がある

     中心的存在。

 

タツヤ  普段は無口で口下手。だが身体は

     大きく、力は強い。

 

ショウジ グループ内一番のお調子者。涙も     ろい所もある。

 

マコ   男前。あか抜けてるような感じ。

     交遊関係広し。

 

僕を含めて5人しか出てきません。

5人とも近所に住んでいて、ちっちゃい頃から知っています。

いわゆる幼馴染みというやつです。

そしてみんな女子からモテます。僕とショウジ以外。

ただ、この【青春爆走編】では女子は出てきません。

 

話は1993年、僕らが16歳のクリスマスの日から始まります。

 

【出逢い編23】あとがき

1999年に当時付き合っていた彼女にフラれ、その後、有美と出逢い、付き合う事になるまでを描いた【出逢い編】でした。

 

今思えば、考えていたことが若いですね。

まあ、若干二十歳そこそこのクソガキなんで仕方ないですね。

 

僕が21歳、有美が19歳、二人ともまだまだ全然子供だったんですが、二人とも『空気を読む』『察する』という所は突出していたと思います。

ただ、この長所は後々、短所になっていきます。

そうなるのはまた先の話で書きたいと思います。

順番通りにいくと次は【交際編】なんですが、少し時代はさかのぼります。

 

時代は【出逢い編】から5年程さかのぼります。

 

僕が高校生の頃の話を書きたいと思います。

理由としては、先日、これからの話にも出てくる友達と5年ぶりくらいに会いまして。

 

現状の話や、昔の話で盛り上がりました。

その時に、楽しかった青春時代を忘れない意味も込めて、ブログに書こう。と決めました。

 

次からは【青春爆走編】が始まります。

ここにでてくる友達の名前は全員本名です。

全員、了承済です。

 

これを読んでくれた人が、自分もそんな頃あったなあ、と懐かしんでもらえたら嬉しいです。

 

 

【出逢い編22】男らしいなぁ

あまりの気まずさ。

あまりの沈黙。

それに耐えられなくなったのか、先に口を開いたのは有美だった。

 

「なんでそんな挙動不審なん?」

 

「そ、そう?全然そんなんちゃうし。」

 

「いやいや、怪しすぎるって。」

 

「全然怪しないし。」

 

若干、すね気味にまたタバコに火をつける。

 

「なあ。」

 

「何?」

 

わざとちょっと素っ気なく答えてみる。

 

「私、たくちゃんの彼女になりたい。」

 

タバコを口に運ぶ手が止まった。

というよりも、車内の時間が止まったような感覚だった。

 

「うん、わかった。これからもよろしくな。」

 

なんてえらそうな言い方だ。これがさっきまで挙動不審な動きをしていた奴と同一人物とは思えない。

 

有美の方がよっぽど男らしかった。

多分、俺が告白してくるのは空気で分かっていたと思うが、なかなか言わないのでしびれを切らした、という所だろうか。

 

とにもかくにも、こうして僕と有美は付き合う事になった。

気付けばもう、日付も変わっていたので、帰ることにした。

 

「家まで送ってってな。」

 

この日から二人の長い付き合いが始まる事になる。

 

たくや21歳の6月だった。