【出逢い編06】ストレート?変化球?
「あっついなぁ。」
「あっ、はい。」
驚くほどそっけない返事をしながら、ワゴンの商品の片付けを続けている。
これは後日談だが、やはりよく声はかけられるらしく、いちいちまともに対応しないらしい。
しかも、その時僕は話しかけるぞオーラ全開だったらしく、来るぞ来るぞ来るぞ、ほら来た❗みたいな感じだったらしい。
そっけない返事、そっけない態度をされてもまだ食い下がる。そこで折れて下がったらカッコ悪いという変なプライドみたいなものがあったからだ。
そこで僕はストレートど真ん中を投げてみる。
「今度、どっか遊びにいけへん?」
「いや、いいです。」
続けてもう1球。
「ほんじゃ、ご飯食べにいけへん?」
「いや、いいです。」
ここで最後に変化球。
「まあ、いきなり声かけてきて遊びに行くのは無理やでな。それやったらせめて電話だけでもしてよ。」
僕はそう言って、ワゴンの上にあったボールペンとメモ帳を勝手に使い、自分の携帯電話の番号を書いて彼女に手渡した。
そして僕は、彼女の返事も反応も見ずにそこから立ち去った。
心理学の本かなにかで読んだ事があるのだが、人との交渉の時、最初にあえて高いハードルのお願いをして、わざと断られるようにし、次に少しハードルを下げてお願いをする。
すると相手は、最初に断っている罪悪感があるので、下げたハードルの要望が通りやすい、らしい。
その後、僕は店を出て近くのファストフード店で早目の晩御飯を食べ、家に帰る為、駅に向かった。